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じゃんけんゲームの実装 |
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Player クラスの実装 | ||||||||||
前節では、じゃんけんに登場するクラスの定義を行いました。本節ではこれを基にじゃんけんプログラムを作っていきます。 Player クラスから実装をしていきましょう。できあがりは Player.java になります。 なにはなくとも、クラスの定義からはじめましょう。
次に定数を定義してしまいましょう。前節で示した「グー」「チョキ」「パー」に対応する int 型の定数です。
次に属性を定義しましょう。これは単純に String クラスの name オブジェクトを加えるだけです。
前節でも説明しましたが、属性は派生クラスで使用することがなければ、基本的に private にします。 それでは、関数の実装を行っていきましょう。Player の関数はコンストラクタと getName、getHand、selectHand の 3 種類です。 はじめにコンストラクタですが、Mastermind の時に説明したように、コンストラクタでよく行われる処理として属性の初期化があります。Player クラスのコンストラクタも属性の初期化を行いましょう。とはいっても属性はプレイヤーの名前しかないのですが。
関数の引数やテンポラリな変数の名前が属性と同じ場合、引数やテンポラリ変数が優先されます。属性を示したいときは、変数の前に this をつけます。コンストラクタや set 関数などで属性に値を代入するなどの処理には使われることがありますが、これ以外では同じ名前の変数を使うのはバグの温床になりかねないのでやめておいたほうが無難です。 名前をかえす getName 関数は次のようになります。
さて、Player クラスの一番重要な関数なのは、手を返す getHand 関数でしょう。とはいうものの getHand 関数の中身はたった 1 行です。前節の図 2-3 のシーケンス図で示したように、getHand が呼び出されると内部的に手を選択する関数を呼び出しています。ここでは手を選択する関数 selectHand を呼び出すだけです。
selctHand 関数は Player クラスの中だけで使用され、他のオブジェクトからはコールされることはないので、private 関数にしてあります。
Mastermind の時には java.util.Random クラスを利用して乱数を得ていましたが、ここでは java.lang.Math クラスの random 関数を使って乱数を発生させています。Math クラスは java.lang パッケージにあり、数学的な演算 (sin, cos, べき乗演算など) が定義されています。これらの演算を行う関数はほとんど static 関数なので、Math クラスのオブジェクトを生成しなくとも使用することができます。random 関数は 0 から 1 までの double の乱数を発生させます。じゃんけんの手は 3 種類なので、3 を掛けて、int 型にキャストしています。こうすると、0、1、2 のいずれかの整数になり、じゃんけんの手を表すことができます。 ところで、Mastermind の時にマジックナンバについて説明しましたが、selectHand 関数の中で使用している 3 という数字もマジックナンバです。じゃんけんの手の数は 3 以外になることはないと思いますが、やはり直接数字を使うよりは定数にしておきましょう。 これを変更した selectHand 関数は次のようになります。 selectHand の内部は乱数を用いて、手を選ぶという処理を行っています。random 関数は 0 から 1 までの乱数を出力します。手の数は 3 種類なので、手数を示す定数 maxSize をかけます。この値は double なので、int にキャストすると 0, 1, 2 のいずれかの整数になり、じゃんけんの手を表すことができます。
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Judge クラスの実装 | ||||||
次に Judge クラスを実装していきましょう。完成版はこちらで参照できます Judge.java Judge クラスの属性は前節で示したように、Player オブジェクトをまとめる players と、じゃんけんの手を表す hands があります。
List クラスは java.util パッケージにあるので、一行目で import しておきます。players と hands の初期化はコンストラクタで行うことにしましょう。
players と hands は List インタフェースで定義してありますが、実際に使用するのは ArrayList クラスです。4, 5 行目の new ArrayList() で初期化を行っています。players と hands は List なのに、new するのは ArrayList というのはなんか変ですね。ArrayList クラスは List クラスをインプリメントしているので、このようなことができます。同じようなことはあるクラスを派生させて子クラスを作ったときも可能です。子どものクラスは親のクラスに成り代わることができるのです。 親のクラスに成り代わることができると、なにがうれしいのでしょう。たとえば、List インタフェースをインプリメントした 2 つのクラス、ArrayList と LinkedList を考えてみます。ArrayList クラスはコレクションを作るのに配列を利用しています。かたや、LikedList はリスト構造と呼ばれる方法を用いてコレクションを作ります。2 つのクラスは実装はまったく異なるのですが、コレクションに要素を追加することや削除するなどの機能は同一です。List を使う側から見れば、実装が異なっていても、機能が同じであればまったく問題ありません。それならば、実装を表す ArrayList や LinkedList というクラスよりも、機能を表す List というインタフェースが重要になります。 同じことを車にたとえてみましょう。車のエンジンにはガソリンエンジンやディーゼルエンジンなど複数あります。ガソリンエンジンもレシプロやロータリーという種類もあり、カムやターボなども考えると多くの種類に分けることができます。しかし、ドライバから見れば、エンジンの種類は異なっても、同じ方法で運転はできます。車という機能さえ同じであれば、運転ができるわけです。 ただし、実装がどうでもいいというわけではありません。車でも、それぞれのエンジンの特性を知ってこそうまく乗りこなすことができるように、プログラムでも実装クラスの特徴を把握することでよりよいプログラムを書くことができます。 たとえば、ArrayList は要素へのアクセスは速いのですが、任意の場所に要素を追加したり削除するのは時間がかかります。これとは逆に LinkedList は要素へのアクセスは遅いのですが、要素の追加・削除は高速に行うことができます。 このような特徴はすぐに覚えられるものではないので、プログラミングの経験を積んでいくことでやしなっていく部分だと思います。 さて、プログラムに戻りましょう。 4 行目で初期化した players に要素を追加していくのが、7 から 9 行目の for ループです。プレイヤーの人数が分からないと要素数が決まらないので、コンストラクタの引数としてプレイヤーの人数をとるようにしました。 ループの中では Player オブジェクトを生成して、players に追加 (add) しています。Player クラスのコンストラクタはプレイヤー名が引数なので、players に追加する順番を名前にしています。 次にゲームのメインルーチンである playGame 関数を説明しましょう。
図 2-3 のシーケンス図で示したように、ゲームの流れは「プレイヤー手を問い合わせて」から「判定」を行います。3 から 7 行目のループで手を問い合わせて、10 行目の judge 関数で判定を行います。 プレイヤーの手を問い合わせるために、4 行目に示したように players の要素をまず取り出します。List はどのようなオブジェクトでも持つようにするため、要素を取り出す get 関数の戻り値は Object クラスになっています。そこで、Players クラスにキャストすることが必要になります。 取り出した player に対して getHand 関数をコールして、手を問い合わせます。6 行目で問い合わせた手を hands に追加していきます。List には int や double などのクラスでないものは要素にできないので、int の代わりに Integer クラスを使用します。 10 行目で判定を行います。judge 関数については後で説明することにして、先に進みましょう。 12 から 19 行目で判定の結果を出力しています。勝者を要素に持つ winners の要素がなければ、「あいこ」なので、13 行目で出力します。要素数のチェックには isEmpty 関数を使用しています。もし、リストに要素がなければ isEmpty 関数の戻り値は true になります。 勝負がついた場合は 15 か 18 行目に示したように勝者を出力します。16 行目で winners から Player オブジェクトを取り出して、17 行目で Player オブジェクトの名前を出力するようにしています。 判定はいろいろな方法で行うことができるのですが、今回は次のように記述してみました。少し長いのですが、難しい処理はないので、容易に理解できると思います。
処理の大まかな流れは
1. の処理を行う前に、それぞれの手を保持しておく List オブジェクトを準備しておきます (2 から 4 行目)。関数 classify で、それぞれの手によって分ける。classify 関数の中は、45 行の switch 文で手の場合わけを行い、それぞれの手の List オブジェクトに追加します。この処理を人数分行います。 2. から 9. の処理が 8 行目から始まる if 文の中で行っています。たとえば、8 行目でグーがいるかどうか調べて、いなければ 9 行目の if 文でチョキがいるかどうか調べます。もし、チョキもいなければバーだけなのであいこになります。 勝負が決まったときは、勝った手の List オブジェクトを戻り値とします。あいこなら、勝者はいないので、たとえば 11 行目のように空の List オブジェクトを戻り値とします。
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スタートアップルーチンの実装 | ||||
さて、ここまででじゃんけんゲームの実装ができたのですが、これをどうやって動かしましょうか。プログラムを動作させるには main 関数を使用することはお分かりですね。 Judge クラスに main 関数をつけてもいいのですが、これだと実行するときに
となってしまって、じゃんけんをするようには見えないですね。そこで、main 関数だけをもったスタートアップ用のクラスを作ってしまいましょう。クラス名はもちろん Janken です。 完成した Janken.java はこちらから参照できます Janken.java Janken クラスの main 関数を次に示します。
main 関数の役割は繰り返しになりますが、
になります。Janken クラスではコンストラクタの引数としてプレイヤーの人数を指定するようにしましたので、これを Judge クラスの生成のときに引数として引き渡すことを行います。その後、メインルーチンである playGame 関数をコールするだけです。 プログラムの引数は String の配列で渡されるので、引数の数を調べているのが 3 行目です。配列の大きさは length で調べることができます。引数の数が正しければ、5 行目で Judge オブジェクトを生成します。Judge クラスのコンストラクタは引数にプレイヤーの人数で int ですから、String を int に変換します。これには Integer クラスの parseInt 関数を使用することができます。parseInt 関数は static 関数なので、オブジェクトがなくても使用することができます。また、この関数は引数が数字に変換できないと NumberFormatException という例外を発生します。例外が発生したときは、7 行目で示したように、使い方を示して、プログラムを終了させます。 プログラムの引数の数が 1 以外の時は、7 行目と同様に使い方を示して、プログラムを終了させています。 生成された Judge オブジェクトに対して、15 行目で playGame 関数をコールします。playGame 関数がコールされると、ゲームが開始するわけです。
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じゃんけんゲームの実行 | ||||||
じゃんけんゲームができあがったので、コンパイルして、それから実行してみましょう。ここではソースが C:\java\janken にあった場合を示しています。
これだと、誰がどのような手を出して勝負が決まったのか分からないですね。誰がどのような手を出したのか分かるようにしてみましょう。単に手を出力するだけだと、手は int 型なので数字が出力されてしまいます。そこで、Player クラスに手をあらわす文字列を戻すような関数を作ってみました。hand の値に応じて、文字列を作っているだけの単純な関数です。
これを使用して Judge クラスの playGame 関数を書きかえてみました。
赤で示した部分が書きかえた所です。これで実行すると次のようになります。
これで、ゲームの結果が分かりやすくなりました。 でも、コンピュータの中だけでじゃんけんをしてしまっては面白くないですね。せっかくなので、次節では人間とコンピュータが対戦できるようにしてみましょう。
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●作成したソースファイルとコンパイルを行ったクラスファイルはここでダウンロードできます janken1.zip (Oct. 2000) |
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